「切り口はうまいが」 おすすめ度:
投稿日:2006-06-13
10年前の出版ではあり、論評の意味も大きいとは思われないが、見過ごせない点についてだけ述べよう。まず、このような行政法学者が書いた各法及びその展開については、常にマクロ的側面からの批判がなされるだけで、ミクロ的側面に言及されないのはやむを得ないところではあるが、P12の「競争と自助努力こそが人間の存在に意義をもたらすとする、浅薄な人間観の復活にほかならない」の記載は肯定できない。障害者や高齢者の場合、ある程度除外を検討せざるをえない面はあろうが、公的扶助(パブリック・アシスタンス)の本来の対象者として想定されたのは、一時的に稼働能力を喪失し、健康で文化的な水準以下の生活を送らざるをえない人々の一群であったのである。そのような人々は公的扶助により稼働能力を回復すれば、早期に通常の生活水準への復帰が可能であり、であるからこそ、再び競争と自助努力の世界への参加は本人の尊厳維持のために、本人自身が望んだことなのである。(ここではあえてスティグマの問題には触れないでおこう)
次に、筆者は「生活保護法の解釈と運用」(小山進次郎編著)を読んでいるのであろうか。その当時、戦前からの恤救規則からの断絶と新しい公的扶助を求めて、一部の厚生官僚が、このような名著を上梓したのは驚くべきことであるが、筆者の参考文献にあげられていないことから判断して、このような書物を精読してから問題提起はなされるべきであると思料する。そうであれば、社会福祉主事や民生委員の設置が時代状況を反映したやむを得ないものであり、かつ機関委任事務としなければならなかった理由もわかるであろう。一口に言って、切り口は上手であるが勉強不足の書物である。